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「リカンベント」は本当に危険なのか? 特異すぎる自転車、そのカタチの理由

「リカンベント」が意味するのは?

 2016年10月20日(木)、「リカンベント」という自転車での死亡事故が起きました。亡くなられた漫画家 小路啓之さんのご冥福を深くお祈りいたします。

 この「リカンベント」という自転車、聞きなれない人も多いのではないでしょうか。端的に説明するなら「シートに寝そべる、もしくは、もたれかかるような姿勢で乗る自転車」といえるでしょう。このような形で注目を集めてしまったことは、個人的(守宮尚志:ポタリング・ライター)にも至極残念なのですが、今回はこの「リカンベント」がどのような自転車なのかを綴っていきたいと思います。

「リカンベント」最大の特徴は、まず「見た目」でしょう。おおよそ自転車とは思えない乗車方法、いうなれば路上でサマーベッドに寝転がっているような姿は、ほかのどの自転車とも異なるものです。そして、とにかく「速い」です。筆者はロードバイクにも乗るのですが、乗り慣れていそうなリカンベントのライダーさんには、道を譲ります。

 この一見、無関係そうな「見た目」と「速度」。これこそが最も密接につながった、リカンベント最大の特徴だと考えています。

「最速自転車」のひとつ、ただし条件付き

 自転車に限ったことではありませんが、速度を出すものは常に空気抵抗と戦うことが多いかと思います。自動車や新幹線、飛行機における流線形も、その観点から生まれた部分が多くあるでしょう。しかし、自転車においては乗車する人間の、人体そのものの形を変えることは困難であり、姿勢を変えることで空気抵抗を減じるしかありません。

 ロードバイクなどではハンドルの下側を持ち、前傾姿勢を強めることである程度、空気抵抗を軽減することは可能ですが、それでも地面と垂直に立った人体は、大きな空気抵抗を受ける要素になってしまいます。

 しかし、地面とできる限り水平に乗車すれば、著しく空気抵抗が下がるはず。これを体現するのがリカンベントであり、とにかく「速い自転車」だといえる根拠になっています。

 もちろん、いついかなる場合でも最速、ということにはなりません。リカンベントの弱点は「登り」といわれています。通常の自転車であれば、立ちこぎで全体重をかけてペダルを踏み込むことができますが、リカンベントでは、それが非常に難しくなっています。つまり、登りや静止状態からの漕ぎ出しなどは、リカンベントにとって不利な状況ということです。

 また、その著しく特徴的な乗車姿勢は、通常の自転車と比べ多くの違いをもたらします。一般的にですが、「遠方は確認しやすい反面、足元が見づらい」「楽な姿勢で疲れにくいが、段差やギャップの吸収がしづらい」「高速安定性に比べて低速での安定が難しい」「自動車などから見えにくいため、旗などを立てる必要がある」といった、さまざまなメリット、デメリットが存在します。

 とはいえこれらデメリットは、シートの高さや形状が異なるもの、あるいは3輪のものを選択するなどによって吸収できることもありますし、つまるところ重要なのは、その形状や特性に合わせた安全対策を講じることで、それができれば、ことさら危ない乗りものではないと感じています。

 以前、筆者は一度だけリカンベントに乗車したことがありますが、そのときに感じたのは「非日常」でした。


速さだけではない「リカンベント」の魅力

 リカンベントに乗ったとき、まず驚いたのは視線の低さ、そして空が見える視界でした。筆者の経験不足ゆえかもしれませんが、およそ「乗りもの」では見たことのないような空間が、「非日常」の世界が、そこにはあったように思います。

 かなり近い位置で過ぎていく道路、間近に聞こえるロードノイズ。少し止まってシートに背を預ければ、眼前いっぱいに広がる空。需要が少ないため、自転車としての単価は高額になることが多いですが、このような要素も、リカンベントが愛好家をひきつけてやまない魅力のひとつなのかなと感じています。

 冒頭でも触れましたが、このたびの不幸な事故によって、リカンベント自体の悪いイメージだけが先行してしまうことは、故・小路啓之さんの思うところではないはずと感じ、僭越ながら筆を取りました。移動手段としても、趣味・娯楽としても、「リカンベント」という選択肢が今後も狭まることがないことを願って、締めさせていただきます。

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by gadem | 2016-10-23 08:47